トレーナーインタビュー

張 琴

KOTO CHO
アンコンシャスバイアスの気づきは、自分が変わるきっかけになります。
このきっかけは、一人ひとりが“自分らしさ”を活かして組織で活躍することにつながっていきます。

エナジースイッチでは、マインドセットやダイバーシティ&インクルージョンの領域での研修提供に力を入れています。

今回は、その中でも最近、特にご相談が多い「アンコンシャスバイアス」をテーマにした研修で登壇依頼が多い、
張琴トレーナーにインタビューです。

アンコンシャスバイアスは、そもそもどういったものでしょうか?

アンコンシャスバイアスは、すべての教育研修のOSだと思っています。

そもそもアンコンシャスバイアスとは、無意識の思い込み、無意識の固定観念という意味です。
なくすべきものと言われることがありますが、アンコンシャスバイアスは誰の中にもありますし、
そもそも無意識なのでなくすことはできず、24時間眠ることはありません。
生きている限り、常に認知のデータとして保存されていきますし、良い悪いという判断がありません。

私たちは、過去に見聞きしたり、経験してきたことをベースにして、今日、明日、未来の行動を決めていることがほとんどです。
言い換えると、過去に見聞きしたり、経験したこと以外のことはパッと思い浮かぶことがほとんどないといってもいいでしょう。

たとえば、過去に失敗したという経験があって、「だから今も失敗するかもしれない」と思い込んでいることがあるとします。
それ自体に良い悪いということはありませんが、「だから私にはムリ」という自分への決めつけが言葉や行動に現れることがあると、
せっかくのチャンスを活かせなかったり、自分への制限となり、可能性を狭めてしまうなどの影響が出てきます。
もちろん、思い込んでいたから成功することもありますが。

アンコンシャスバイアスは取り除くべきもの、というわけではないのでしょうか?

過去の経験から「できない」「やらない」「そんなはずはない」と思い込み、「きっとこうだ」という決めつけで判断したり、
或いは自分の思い込みに気づかず、誰かに対して押しつけたりすることがあるかもしれません。

アンコンシャスバイアスが言動になって現れたときに、
自分だけでなく周りの行動にネガティブな影響を与える可能性があることは知っておかなくてはいけないでしょう。

ですので、過去に「こうだ」「これが当たり前だ」と思っていたことが本当に正しいのか、見直すことが大事です。
自らのアンコンシャスバイアスに気づくことが大切であり、否定する必要はないということです。

アンコンシャスバイアス研修というと、「あれを言ってはいけない」のように、
管理職の方に向けて制限をかけてしまうようなアプローチになっている事例があると聞いています。

そうではなく、今までのことを否定するのではなくて、今までやってきたことを肯定した上で、
一歩、前に進んでいくっていうマインドセットをすることが大事なんです。

実際、コロナ禍のような変化の時代、今までのやり方が通用しないと思ったら、
自ら仕事のやり方や生き方を変えてきたことがたくさんあると思います。
うまくいかないと思いこんでいたけれど「やってみればうまくいった」など、
今までのやり方が土台にあったからこそ気づけたこと、変えられたことなのだといえます。

このように、未来に向かって1歩前進しようとするとき、変化を求められるときほど、
自分のアンコンシャスバイアスが役に立っているのか、今までのやり方が正しいのか、ということが見直せるチャンスでしょう。
マネジメントの手法が変わってきたり、リーダーシップのアプローチが変わってきたり、など、
10年前、20年前と今では、大きく異なってきています。

ですので、どのような教育研修であっても、そのOSとしてマインドセットする。
まずは過去に見聞きしたり、自分が経験してきたことで、「こうだ」と思い込んでいることを見つめ直してみよう、というのが、
私のアンコンシャスバイアスに対するアプローチです。

張琴トレーナーがアンコンシャスバイアスに力を注ぐ理由はなんでしょうか?

研修を実施すると、「そうはいうけど」「そこまで考えたことがなかった」といった声を聞くことがあります。
でもそれって、個人が組織の慣習の中に、これまでのやり方に疑問をもつことなく埋没してしまっているから出る言葉なんです。

最近特に、あの人はこうだ、会社はこうだ、のようなセリフに象徴される、「私は悪くない」と考える正常性バイアスや、
自分にとって都合のいい情報ばかりを集めてしまう確証バイアスの人が増えてきているとも感じています。

情報過多の時代、その情報が正しいかどうかを判断することはとても困難でしょう。
けれど、自分の無意識にあるデータを見つめなおすことは、いつでも誰でもすぐにできるのではないでしょうか。
ですから、アンコンシャスバイアスは、まず自分ごと化する、当事者意識からスタートします。

まず自分から変わるのが基本。誰かが変わるのを待っていても、何年たっても変わらないかもしれません。
人を育てるのは長期戦ですが、自分から変わることは即戦力に繋がります。

会社や周りに対して、「これは無理だ」「これはダメだ」としてしまっている思い込みや、
未来に対して決めつけや押しつけはないかなど、自分ごととして考えていくことです。

受講者が研修を受けて気づくことはどんなことが多いですか?

研修というのは「重要」なことをテーマに扱いますが、現場は「緊急」なことを扱っています。

研修を受講しても、現場に戻ると「緊急」なことに追われて学んだことを忘れてしまうんです。

「重要」だって分かったから現場に活かそう、という意識をもってもらうために、
「まず自分から変わる」と、マインドセットすることをしっかり促すようにしています。

付け加えると、すぐに役立つスキルとして、1on1やコーチングを身につけることは大切です。

けれど、対話の中に、相手に対する決めつけや押しつけがあることに気づかないと、
相手に対する正しい評価ができなかったり、相手の可能性を狭めてしまうこともあります。
そうなると、対話がぎくしゃくしたり、イライラしたり、分かり合えないままで終わったりすることさえあります。
そんなときこそ、相手のせいにせず、まずは自分のアンコンシャスバイアスに目を向けてみることをお勧めします。

実際に、受講者から「自分が良かれと思ってやっていたことが、相手の可能性の足を引っ張っていたんだと気づきました」と言われたり、
相談を受けることがすごく増えました。

どんなテーマの研修であったとしても、全てにおいてベースとしてのものの見方や考え方、
それから人間としてのあり方を自分なりにリセットして、再構築すること。
リセットして「あっ、そうか」と気づいたら人は、一歩踏み出しやすくなるかもしれません。

だからこそ、どんなテーマの研修でも、アンコンシャスバイアスを取り上げるようにしています。

アンコンシャスバイアスはどんな時代でも不変的なテーマですね。

アンコンシャスバイアスという言葉に出会ったのは2019年。ただ、無意識の思い込みを洗い出すということは、
もっとずっと前からマインドセットのテーマとしてやってきています。イノベーションには不可欠ですから。

昨今、仕事や研修がオンラインになって、アンコンシャスバイアス研修の需要が伸びてきました。

変革が求められるときほど、今までのやり方が通用しなくなるからでしょうね。
そんなときほど、アンコンシャスバイアスに向き合いやすくなるので、ニーズが増えているのだと思います。

時代が変わったり、企業の方向性が変わったりするときこそ、自分を変えるチャンス。

問題解決、リーダーシップ、1on1、コミュニケーション、コーチングの研修の最初の部分で
しっかりアンコンシャスバイアスと向き合うと、人々の意識や言動が変わっていくと感じています。

研修を通じて、受講者の方にどのように変わってほしいですか?

ダイバーシティ&インクルージョンの組織構築が、10年以上前から求められています。

それぞれが自分らしくある、自分らしく働く、認め合うという多様性は重要です。
多様性こそが強い組織を創り上げる原動力になると思います。

一方で、どこに向かって、何のために、個人の持ち味を活かしていくのか、
我々のミッションやビジョンは何かを府落ちさせて実行することがインクルージョンです。

一人ひとりが「らしさ」を活かして前に進んでいくことは組織の推進力になりますが、
その際、個人が自らのミッションを明らかにすることも必要です。
そして、この推進力はどこに向かっていくのか、我々のミッションは何かを明らかにし、
共感、共鳴するということが一体感に繋がり、総合力、統合力になっていく、ということです。

この両方のバランスを取らなくてはいけないと思っています。

受講者の方には、ただ単純に「らしさ」を活かした多様性を認めあうということだけでなく、
何のために、どこに向かって「らしさ」を発揮できるか、「らしさ」が組織や社会にどう役に立っているかというところまで、
主体的に、自律的に考えられるように変わってほしいと思っています。

その変化を起こすために、ファシリテーションではどのような工夫をしているんですか?

個人と組織の観点から“気づく”というセッションから始めるようにしています。

「自分の当たり前って?」「うちの会社の当たり前って?」ということから向き合います。

アンコンシャスバイアスが自分にもあるかもしれない、
そして、組織の暗黙のルールとしてアンコンシャスバイアスがあるかもしれない、ということを認識してもらいます。

当たり前をいったん見つめ直すことで、未来に対してどんな影響を与えている可能性があるのかを考え、
自分たちで「未来をこうしたい」と思う先には可能性しかないことに気づいてもらう。

そのうえで、自分たちが「らしさ」を発揮すれば、わが社「らしさ」を発揮すれば、
どんな組織になっていくか、未来がどう変わっていくのか。
どこに対して自分たちの「らしさ」を活かしていくのか、
わが社「らしさ」をどう社会課題につなげていくか、などをしっかりと言語化する。

それによって、自己認識が深まり、一体感が醸成され、組織の力に繋がっていくのだと思います。

その手法として、ファンクショナルアプローチをよく活用しています。

ファンクショナルアプローチの出発点は「何のため」「誰のため」という問いかけです。

何のために、誰のためにという目的を明確にしていきます。

たとえば、
この商品やサービスは「何のため」「誰のため」にその機能(ファンクション)を持って開発されたのか、といったことを考えていきます。
そして、今現状やってることが未来の目的達成のアプローチにふさわしいかどうかということを見つめ、新たな意味づけを行っていきます。

目的ありきになると、色んなやり方があるよね、という考えになりやすい。まさに、アンコンシャスバイアス、
無意識の思い込みや決めつけがあったなぁということに気がついて、イノベーションが起きやすくなるのです。

エナッチと組んで印象的だった研修は?

エナッチって人に寄り添っている会社だと思っています。

お客様や受講者の立場に立って、細部にわたってのサポートをされる、って感じています。

過去に、大手製薬会社さんで担当した研修はとても印象に残っています。

当時、新たな行動指針、バリューを再構築され、経営トップのメッセージを現場に落とし込んでいくっていう研修を実施したんです。

単に、手が痛いから手を治す、というような研修ではなく、組織の歴史を振り返り、
アンコンシャスバイアスに気づくところから体質改善につなげるところまで関わることができた、というのはすごく貴重な経験でした。

エナッチの営業担当は、世の中で流行っている研修とかではなくて、
その会社が掲げる新たな方向性に向かって、研修はどうあるべきか、研修をどうしっかり作り上げるか、ということを
とても真摯に人材開発担当者と向き合って考えられ、実際にそうすることがすごく重要だと共感しました。

その会社におけるベストフィットっていうものを一緒に提案していけるって、とてもやりがいを感じます。

理念があって、ビジョン・ミッション・バリューがあるのに、研修ではそれを扱わない、のではなく、
これからの研修はすべてそれらを冒頭に入れるといいと思ったくらい、印象に残った研修になりました。

今後エナッチと一緒にやってみた研修はありますか?

アンコンシャスバイアス、D&Iやパーパス研修はもちろんですが、50代が元気になる研修(笑)

各企業の現場には、隠れたヒーローがたくさんいる、ということを以前から感じています。

「それを作られたんですか」「そんなことやってこられたんですか」と驚くことが多い。

縁の下の力持ちとしてやってきた人たちのおかげで、今がある。それが埋没している可能性がある。
もしかすると、そこに会社の「らしさ」や「価値」が眠っているかもしれません。実にもったいないことです。
「まだ見ぬベネフィット」は「目の前にあるのに気づいていないベネフィット」かもしれませんね。

過去があったうえで今があって、その恩恵を受けていることも事実。
それを押さえたうえで、何を残し、何を伝え、未来をどう作っていくか、というのを考えていく研修を一緒にやりたいと思っています。
  

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